2019年年末に中国武漢にて始まった新型コロナウイルス感染症は当初、感染症による影響がこれほどまでに日本に影響することになるとは想像もしなかった。
想像出来なかったのは感染者数のことだけではなく、人々の生活の変貌ぶりである。今ではガラガラの空いた電車でもマスクをしないと普通にいられる雰囲気ではなく、ドアノブやレジの会計時に素手では怖いので手袋をしながら行う人も現れ、携帯用のアルコールスプレーを持参している人も増えた。
私たち医療人で変わったことと言えば、クリニック内の清掃を1人外来診察が終わる度にアルコールや次亜塩素酸にて行っている。今まではプライバシーの問題で窓も開放していなかったが、今は気兼ねなく開けられる、というより開けていることで安心して頂ける。
新型コロナウイルス感染症を心配している患者さんも日に日に多くなっている。喉が痛い、咳が出る、だるいなどの通常であれば、風邪かな?と感じるだけの症状であっても今ではコロナにかかったのでは?と心配する人が極めて増えた。2020年4月24日現在、治療薬がまだ確立していないこと、有名人がお亡くなりになられていることも大きいのだろうが、基幹病院の発熱・感染症外来はもう既に逼迫しており、外科手術が延期されたり、人間ドックや検診も延期され日常の診療の風景が一変した。
帰国者・接触者相談センターに発熱で相談しても自宅で待機と言われたまま発熱と倦怠感でうなされたままどうしたら良いか困っている人が非常に多い。非常に残念でまた悲しいニュースだが自宅で待機中にお亡くなりになられている方もおられることも耳にしている。
自らがかかりつけ医として甲状腺疾患、糖尿病、高血圧症などを診察してきた患者さんには、何かあればいつでも必ず風邪対応する旨はお伝えしてきたが、一度もお会いしたことのない患者さんでも困っている方がいれば力になりたい、少しでも不安を解消する手助けがしたいと思い、風邪・発熱外来を開くこととした。
残念ながらこのような外来を開くと、クリニックに来ることで新型コロナウイルスに感染するのではないか?と逆にご心配され、予約をキャンセルをされる方もいらっしゃる。これも実はあまり予想しなかったことだが、上記に書いた社会全体が新型コロナウイルス感染症を非常に恐れている雰囲気を鑑みれば理解できる。
しかし、私はキャンセルされる人がいても、患者さんが減っても、事態が安定するまでこの外来を辞めるつもりはない。私が常々外来診療でお伝えしていること、ホームページのお知らせ欄にアップしていることを読んで頂き、五十子の言う通りだなあ、と理解して頂ける患者さんだけにいらして頂ければ良いと心から思っているからである。(しかし医療の継続も必要なので、どうしてもご心配である、あるいは遠方である、多忙で病院には行けない方への窓口として5月6日より初診患者さんを含めた完全なオンライン診療も開始する)
きちんと室内換気、丁寧に清掃を行い、三密にならない様に待合室での待ち時間短縮への対策を行っていれば感染症リスクは上がらないので心配せずにご来院頂ければ良いと考えている。自らがやるべきこと、つまりは睡眠、栄養、運動にしっかり留意し続けることこそが感染症対策として最も重要なことであると理解して欲しいと願うばかりである。最近は新型コロナウイルス感染症を心配することによる運動不足や睡眠障害のために糖尿病悪化や心疾患が非常に多くなっていることも気になる。
感染症は常に自己免疫と外来微生物との力関係である。常々日々の外来でお伝えしているので通院されておられる患者さんはご存知だと思うが、風邪の初期治療における漢方薬の右に出るものは間違いなくない。今回の新型コロナウイルス感染症でも全く同じだと考えている。もちろん呼吸状態が悪くなった方への抗ウイルス薬の治療は今後標準化されるだろうが、2020年4月24日現在はアビガンかもしれないしレムデシビルかもしれないが決定されていない。
しかしなんとなく体力が落ちている、喉がイガイガしている、熱っぽい時など、いわゆる風邪症状に対しては、漢方薬以上に効果のある薬はないと確信している。漢方薬といっても非常に多くの薬があるのでそれを使いこなすことが重要である。37.5度以上の発熱で4日間とか2日間とか自宅にて安静にて待機することは感染拡大対策上は良いことだが、一人ひとりの対策には全く意味がない。風邪症状はもし自分の力で改善するのであれば1日で改善傾向か否かかは判別できる。皆様もご経験があるだろう。なんとなく風邪っぽいけど、しっかり身体を温めて汗をたっぷりかいたら翌日にはスッキリしていたなんて経験を。もし翌日、更に体調が悪くなっているようなら自分の力で改善する方向に行くのは難しい状態なのだ。その翌日こそ漢方薬を投与したいタイミングなのである。あるいは免疫力低下が予想される方、例えば抗癌剤や免疫抑制剤投与中の方、癌治療中や癌治療を終わって間もない方、心臓疾患、呼吸器疾患、重度の糖尿病の方、高齢者の方などは免疫力を引き上げる漢方薬を予め服用していることも一案であると強く思う。
私が以前よりお世話になっている慶應大学漢方医学センター長・准教授兼横浜薬科大学特別招聘教授の渡辺賢治先生が2020年4月18日発行の日本医事新報に寄稿されておられる新型コロナウイルス感染症に対する漢方の役割をここで紹介するのでぜひ読んで頂きたい。
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14426
現状を鑑み、何をすることが医師の使命か、を考えてこのような対応をすることになったこと、また医師の原点である病気で悩む、苦しむ人を漢方薬を含む全人的な治療にてサポートすることに強烈に情熱を注いでいく決意をどうかご理解頂きたい。
院長 五十子 大雅